秋月春風 閑人のブログ

歴史、読書、ペン字、剣道、旅行……趣味の話を徒然と。

韓国人と三国志演義

 これは平成元年にある会報に掲載してもらったものです。若干の字句の修正のうえで当時の文章を転載します。

 

 韓国の人々は昔から中国の古典に親しんできた。なかでも「三国志演義」で活躍する英雄たちの話はよく知られている。格言として「三顧草廬(サムゴチョリョ)」、「水魚之交(スオジギョ)」などが用いられ、また「地獄の沙汰も金次第」を「トニ・チェガル・リャン」つまり「お金が諸葛亮孔明)」と表現する。

 大根を「ムウ」というが、これは蕪を指した「武侯菜(ムフチェ)」の転訛であり、諸葛武侯(亮)にちなんだものといわれる。(ムウについて満州語由来説があるが、これは逆で、韓国語から満州語に入ったものであろう。)

 ところで、弟や妹を指す韓国語「トンセン」は「同生」と書く漢字語であるが、中国の古典にも現代中国語にもこの語は見当たらない。これは韓国で生まれた言葉らしい。もっとも私は、この語も三国志演義が出典と考えている。

 「世説新語」によると魏の曹操の子、曹丕は、後継者の地位を争って不和となった、弟の曹植に対し、七歩のうちに詩を作れ、できぬときは死罪に行なうとの難題を出した。植はみごとに六句の詩を詠じ、兄を恥じ入らせたという。いわゆる「七歩の詩」である。

 三国志演義では、少し改変され、植は兄の出した「兄弟」という題に対し、即座に四句の詩を賦したことになっている。

 

 豆を煮るに豆萁 (まめがら)を燃(た)く

 豆は釜の中に在って泣く

 本是れ 根を同じくして生じたるを

 相煎(に)ること 何ぞ太(はなは)だ急なるを

 

 この第三句「本是同根生」、「豆(弟)である自分は、豆がら(兄)と同じ根から生まれたものではないか。」 この「同根生」から弟(妹)を指す「同生」の語が生れたと解してよいであろう。